また、やってしまった。好きな彼と廊下でバッタリ目が合った瞬間、私の視線は吸い寄せられるように足元へと落ちた。心臓がドクドクと鳴り響き、顔に熱が集まる。本当は「おはよう」と笑顔を向けたかったのに、喉の奥に言葉が詰まって、結局何も言えないまま、彼の横を通り過ぎてしまった。「俺のこと、嫌いなのかな…」彼の背中から、そんな寂しさが伝わってくるようで、胸が締め付けられる。夜、ベッドの中で天井を見上げながら、何度もそのシーンを反芻し、自己嫌悪に陥る。「どうして私は、いつもこうなんだろう。彼に嫌われたらどうしよう、このままじゃ何も始まらないのに…」そんな絶望的な心の声が、私の心を深く蝕んでいく。
友人には「もっと笑顔で話しかけなよ！」「自分から積極的にアピールしなきゃ！」と、よく言われる。もちろん、試したことは何度もある。次の機会こそはと、心に決めて彼の前に立つ。しかし、いざ彼が目の前に現れると、途端に体が硬直し、頭の中が真っ白になるのだ。まるで、大切な宝物を隠すように、私の心に頑丈なシャッターが音を立てて降りてしまう。一般的な恋愛テクニックは、私にとって何の役にも立たなかった。表面的なアドバイスでは、この根深い問題は解決できないことを痛感した。
なぜ、こんなにも「好き避け」をしてしまうのか？それは、まるで庭に生えた雑草を、上から刈り取るだけの行為に似ている。一時的に見えなくなっても、根が残っていればまたすぐに生えてくる。私の「好き避け」もまた、心の奥底に根付いた「嫌われることへの極度の恐れ」と「自分への自信のなさ」という、目に見えない雑草が原因だったのだ。完璧でなければ愛されない、失敗は許されない、という無意識の呪縛が、私の心を硬く閉ざし、彼への好意を素直に表現することを阻んでいた。このままでは、彼との関係は永遠に平行線のままだと、心の底から悟った。
この悪循環を断ち切るには、まず自分自身と真摯に向き合うことから始めるしかない。私は、ノートに自分の良いところを書き出す「自己肯定感ワーク」を始めた。小さなことでもいい。「今日の資料作成、頑張った」「あの時、友人の話を聞いてあげられた」——。一つ一つ、自分の価値を再認識する作業は、まるで心の土壌を少しずつ耕していくようだ。そして、彼から嫌われることを恐れるよりも、「何もしない後悔」の方がずっと大きいことを心に刻んだ。完璧な私でなくても、ありのままの私を受け入れてくれる人に出会いたい。そう強く願うようになった。
ある日、彼が遠くからこちらに歩いてくるのが見えた。いつもの私なら、サッと視線を逸らしていただろう。だが、その日は違った。深呼吸をして、心の中で「大丈夫、大丈夫」と繰り返す。彼と目が合った瞬間、反射的にそっぽを向きそうになる衝動をぐっとこらえ、ほんの少しだけ、口角を上げた。それは、たった1秒にも満たない、ぎこちない微笑みだったかもしれない。しかし、「…っ、できた！」その小さな一歩が、私の心のシャッターに、確かに光を差し込ませたのだ。彼の表情が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。その日を境に、私は「嫌われるのが怖い？本当に怖いのは、何もせずに終わることだ」という言葉を胸に、少しずつ、彼に心を開く勇気を持ち始めた。完璧なアプローチではなくても、ありのままの好意を伝えることの大切さを知ったのだ。今、私は彼との関係が、ゆっくりと、しかし確実に、新しいフェーズへと進んでいるのを感じている。あなたも、心のシャッターを開ける勇気を持てば、きっと理想の未来を掴めるはずだ。
