「まただ…」スマートフォンの画面に映る、彼からの「好きだよ」というメッセージ。数週間前まで、彼のSNSをこっそりチェックし、偶然の出会いを装って声をかけ、些細なLINEの返信一つに一喜一憂していた私。あの頃の胸の高鳴りは、一体どこへ消えたのだろう。彼が振り向いてくれた途端、まるで魔法が解けたかのように心が冷めていく。この感覚、何度経験しただろう?
大学時代の先輩、職場の同期、趣味のサークルで出会った人…。自分から追いかけている時は、まるで世界が輝いて見えた。彼の笑顔、彼の声、彼の何気ない仕草。すべてが特別で、手に入れたい宝物のように思えた。「今度こそ、本気の恋だ」そう信じて、全身全霊でアプローチした。時には友人にも相談し、恋愛指南書を読み漁り、デートプランを練り、彼の好みに合わせて自分を磨いた。そして、ついに彼が振り向いてくれた瞬間。「やった!夢が叶った!」喜びで胸がいっぱいになったはずなのに、次の瞬間から、まるで砂が指の間からこぼれ落ちるように、急速に興味が失せていく。
「あれ?こんな人だったっけ?」「なんか、思ってたのと違う…」一度そう思い始めると、彼の熱烈なアプローチも、優しい言葉も、私にとっては重荷に変わってしまう。デートの誘いも億劫になり、LINEの返信も義務のように感じる。「なぜ私ってこんなにひどいんだろう。せっかく好きになってくれたのに…」自己嫌悪に陥り、罪悪感で押しつぶされそうになる。このままでは、今の好きな人とも同じ結末を迎えてしまう。そう思うと、胸が締め付けられるような不安に襲われる。「どうすれば、この呪縛から解放されるんだろう?」「私は、本当に誰かを愛することができない人間なの?」夜な夜な天井を見上げ、涙を流すことも少なくなかった。
この「追われると冷める」現象は、まるで喉が渇いている時に「甘いジュース」ばかりを飲むようなものです。一口目は最高に美味しく、その刺激に夢中になります。しかし、本当に体が求めているのは、甘さではなく「水分」そのもの。いくら甘いジュースを飲み続けても、根本的な喉の渇きは癒えず、かえって体がだるくなってしまいます。相手からの好意という「甘いジュース」の刺激ばかりを追い求めず、自分自身の内なる「渇き」、つまり自己肯定感の欠如に向き合い、「純粋な水」のように無条件の愛情を受け入れることができれば、真に満たされた関係を築けるでしょう。
では、なぜ私たちは「追いかける恋」に夢中になり、手に入ると冷めてしまうのでしょうか。その根底には、「自己肯定感の低さ」と「承認欲求」が隠されていることが多いのです。追いかける過程で感じる「達成感」や「征服感」は、一時的にあなたの自己価値を満たしてくれます。しかし、それは外側からの評価に依存したものであり、内側から湧き上がる真の自信ではありません。相手が振り向いてくれた瞬間、その「目標」が達成されると、自己肯定感を満たすための「刺激」が失われ、興味を失ってしまうのです。また、理想化していた相手が、現実の人間として目の前に現れると、そのギャップに耐えられなくなるという側面もあります。
このパターンを乗り越え、真実の愛を育むためには、まず自分自身と深く向き合うことが不可欠です。具体的なステップとして、以下のことを試してみてください。
1. 感情の客観視と記録
「冷めた」と感じた瞬間に、どんな感情が湧き、どんな思考が頭をよぎったか、具体的に記録してみましょう。その感情の裏に隠された、本当のニーズや恐れが見えてくるはずです。
2. 相手の好意を「贈り物」として受け取る練習
相手からの褒め言葉や愛情表現を、素直に「ありがとう」と受け取る練習をしましょう。否定したり、謙遜しすぎたりせず、ただ受け入れることで、無条件の愛情を受け取る感覚を養います。
3. 恋愛以外の自己肯定感を育む
趣味や仕事、友人関係など、恋愛以外の分野で「自分は価値がある」と感じられる経験を増やしましょう。恋愛が自己肯定感を測る唯一の基準ではなくなると、心の安定が生まれます。
4. 「追いかける」以外のコミュニケーションを学ぶ
相手との共通の興味を見つけたり、深いテーマについて話し合ったりすることで、刺激や達成感に依存しない、真の信頼関係を築くことができます。相手の内面に触れ、共感し、支え合う喜びを知りましょう。
「追われると冷める」という感情は、決してあなたの人間性を否定するものではありません。それは、あなたが「本当の自分」と「真の愛」を見つけるための、大切なサインなのです。このサインを無視せず、自分自身と向き合う勇気を持つことで、あなたはきっと、表面的な刺激ではなく、心の奥底から満たされる、温かく長続きする関係を築けるはずです。あなたは、追いかけなくても、十分に愛される価値のある存在なのですから。
